incomplete existence -週末美術館- 久保田沙耶×松島潤平

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Incomplete existence
久保田沙耶

遺物の欠けた輪郭を、マーカサイトで埋めていく。「fool’s gold(愚か者の金)」と呼ばれるマーカサイトは、かつてダイヤモンドの類似品として使われ、今ではヴィンテージのアクセサリーによく用いられる模造宝石だ。「古いもの」を、「古めかしいもの」で補完する。欠けた断面に些細な嘘を織り込むだけで、その物性と履歴がすべてフィクションへと変質してしまうようだ。
たとえば、土から練り上げてつくられた縄文時代の造形と、これまでの時間経過の中で自然と欠けていった造形、そして今私が施す造形とは一体何が違うのだろうか。ただひたすら欠けた場所を鉱物のきらめきで埋めていくことは、私自身が歴史のなかの偶然の現象となっているようだ。この遺物たちと一緒に「いま」という時間から逃れ、前後不明な遠くの時間へ身を投げることができる。

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オーパーツの叫び声
「incomplete existence」によせて

建築家/批評家 松島潤平

欠けた断面には肉が現れる。肉は装いの剥がれた、隠しようのない最もプライベートな履歴書。これまで何を取り込み、どんな内部の化学変化を起こし、それをもとにどんな運動をしてきたか。肉を食べるということは、そんな究極的に私的な彼の歴史の断面を、見た目と、匂いと、味と、音と、歯ざわりと、喉ごしで読むことである。僕はワニを食べたことがあるのだが、そのときようやくワニを理解できた感覚がした。淡白で眠そうで、しかして一瞬の緊張の速さと強靭さ。彼を食べることで、ヒトである僕には絶対踏襲できない、彼独特の生きるリズムを教えてくれた気がした。

一方イエス・キリストは、最後の晩餐で弟子たちにパンと葡萄酒を渡してこう言った。
「これはわが体である、これはわが血である」
よくよく考えてみれば、こんなにも熱烈な「わたしを想像しろ!」という言葉は聞いたことがない。 二千年後の人間たちにも響くわけだ。

その土器が、その古さゆえの市場価値をもともと持っていたかは知らない。ともかくも、考古遺物である彼のアンタッチャブルな肉の断面がかさぶたのようにマーカサイトで覆われ、大事な履歴の片鱗が嘘で覆われている。彼が現代に放っていた奇跡的な存在感を全部台無しにしながら、工芸品としての新しい価値が半ば無理矢理に与えられている。しかも「愚か者の金」によって。たびたびこの場において繰り返す言葉だが、これは修復や治療ではなく「現在の暴力」である。

マーカサイトはヴィンテージの記号物。いま我々が懐かしく「古めかしい」という感じるものが、ノスタルジーなどもはや届かない、博物学の世界へ行ってしまったガチンコに「古い」ものに宛てがわれる。そのとき物質断面の問い掛けが、時間断面の問い掛けへとすり替わる。< 軽い古さ >と< 重い古さ >のちぐはぐな足し算。生まれるものは、どの時間軸に存在したらよいかわからない、なんとも所在なさ気に歴史に漂う“オーパーツ(場違いな工芸品)”だ。

オーパーツは我々に問い掛け続ける。自分は古いのか。いつから古くなったのか。新しかったのはいつまでなのか。古さにも比重があるのか。より古い方に価値は宿るのか。千年後には今古いものも新しいものも、押しなべて一様に古くなるのか。矢継ぎ早な問い掛けによって「古さ」の中に並行して存在する複数の時間軸が見えたとき、「古い」という価値指標の危うさに気付かされる。ちぐはぐなのは、あくまでも現在における我々の時代考証でしかない。

忘れがちなことだが、現代美術もいつかは考古遺物になる。千年後、この作品は博物館に収まるだろうか、美術館にいるだろうか。日用品/工芸品/芸術作品の境界は、時間が横暴に溶かしていく。「いま」という複雑な価値の乱立するカンブリア紀が、「古いから貴重である」という短絡的な価値回路の冥王代へと逆収束していくのだとしたら。我々のこんなにも繊細な感覚が、すべてないがしろにされる運命なのだとしたら―― まずは土器から響く「わたしを想像しろ!」という叫び声に、切実に耳を傾けることから始めなければ。

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これまで全五回のレヴューにおいて、「暴力」「台無し」「ブレ」「ねじれ」という言葉を繰り返し用いた。まぁなかなかにひどい言葉たちである。欠損させたり、焦がしたり、修復したり、治療したりのやりたい放題。しかしそうして暴かれた物々の断面から、彼らの尊厳=霊を呼び起こすことが彼女の作品に通じる行為である。
基本的には優しいだろう。しかし確実に残酷な側面に恍惚としていることが窺える。「現在の暴力」に陶酔して、歴史が連綿と紡いだ「形」に宿る「霊」を取り出す。霊の発現機関、すなわちシャーマンの視界を追従する仕掛けとして、彼女の作品を眺めていきたい。

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incomplete existence
2013年
考古遺物、マーカサイト(SWAROVSKI MARCASITE)、ミクストメディア